デジタルアセット管理(DAM)実装のためのベストプラクティスを全5回のシリーズでお届けしています。この記事はその最終回です。

これまでの記事は、以下のリンクからご覧いただけます。

「ゆっくり急げ」(ラテン語でFestina lente)は、ローマ皇帝アウグストゥス、ティトゥス、そしてルネサンス期の教養人として知られたコジモ・デ・メディチのモットーでした。この3人がDAMについてまったく知識がなかったことは間違いないと思われますが、大きな組織の変化を率いていくことにかけては偉大なる知恵を持っていました。ローマ帝国とフィレンツェ共和国でそうだったように、DAMの実装においてもゆっくり急げはきわめて重要な成功要因です。

大きな事業目標に結び付けてデジタルアセット管理(DAM)のプロジェクトを実行しようとすると、そのスコープや野心がとてつもなく大きくなってしまうことが多々あります。野心を持つことはもちろん良いことです。今から50年近く前の月面着陸も、野心があったからこその偉業でした。が、目標に至るには一歩一歩、前進しなければなりません。

急ぎすぎれば、その過程で重要なステークホルダーが脱落して、もはや賛同してくれなくなるでしょう。あるいは、思い込みや間違いの結果、軌道修正が難しくなり、プロジェクト全体をリスクにさらすかもしれません。

遠くへ行くには … ゆっくり進む

忘れてはならないのは、イテレーション、すなわち小刻みに繰り返して改良していくことができるということです。最初からすべて完ぺきにしたいと思う気持ちは誰にでもあるものですが、その気持ちに固執してしまうと、「初回はおおむね良ければよしとして、追い追い調整していこう」というメンタリティを持てなくなるのも事実です。それに、エンドユーザは様々な機能をリクエストしてきますから(特にその機能の存在が明らかでない場合)、開発者にはプレッシャーがかかります。

Nuxeoの経験知によると、フェーズ1のスコープをリーズナブルなレベルにしておき、事業部門にとって部分的ではあるけれども現実に実感できる価値をもたらすのがベストと言えそうです。最初にすばやく勝ちを収めることで、長い旅路を歩んでいくための推進力が生まれるのです。

フェーズ1に際しては、明確にコミュニケーションすること、今後導入される機能についてもくどいほどにコミュニケーションすることが、非常に重要です。透明でオープンなアプローチを取ることです。そして、意思決定の過程を前進するごとに、なぜその決定が下されたのかを説明します。透明性は、信頼と自信を育てる土壌となります。

では、フェーズ1のスコープをどのように決めるのが良いのでしょうか。

DAMスコープ・フェーズ1

主なペインポイント、すなわち不満の集中しているポイントを特定し、分類します。この分類に際しては、一定のユーザ集団、ブランド、事業部門ごとなどに見て、その問題解決の希望をこれまでに表明してきたグループを理解します。この問題解決の目標を基礎として、長期的な幅広いDAMプロジェクトに対する賛同も得ていくことができます。そしてもちろん、実装プロセスのすべての段階を通じて、エンドユーザにフィードバックを求めるようにします。

Pasta Buddyが実行した最初のDAM実装

Pasta Buddyでは、最初のフェーズで3つのブランドを対象とすることにしました。事業の異なる側面を取り込み、同時に規模と実行可能性という点でも程良くなるよう配慮して選ばれた3つのブランドでした。

1つ目のブランドは、最近買収した事業部門で、独自のプロセスが多数存在し、通常以上のサポートを必要としていました。2つ目のブランドは、長年のレガシー・ブランドで、古くからの方法で管理されていました。3つ目のブランドは、数十年にわたってこの会社の一部であるにもかかわらず、常に別の方法で管理されていました。

そこで、Pasta Buddyの実装プロジェクトの初期計画は、次のようなものになりました。

DAMの初期計画

このフェーズの後のステップとして、次のような計画が策定されました。

1.PIMシステムを導入して、そこから取得したデータをDAMソリューションにフィードする(これまでの記事で解説済み)。
2.最初のフェーズで対象とした3つのタイプのいずれかに該当する他のグループを特定し、スコープを拡大する。
3.3つのタイプのいずれにも合致しないグループをサポートするための付加機能、および会社全体にメリットをもたらす付加機能を特定する。

初回の記事で申しあげたとおり、このシリーズは、コンシューマー向けの商品を販売する年商100億ドルの企業に対して弊社が提供したサービスの経験に基づいて執筆されました。デジタルアセット管理への投資から最大限の価値を引き出すために何ができるかについて、この記事をお読みになった皆さんに実用的な知識を得ていただけたのであれば幸いです。