Nuxeoには、デジタルアセット管理(DAM)実装のためのベストプラクティスアドバイスを求める声が、お客様企業や導入を検討中の企業からよく寄せられています。そこでこの連載記事では、某消費財(CPG)メーカーのお客様で現在進めている実装に基づいて、DAMコミュニティ向けのヒントと助言をいくつかご紹介したいと思います。

以下の5つのベストプラクティスを重点的に取り上げます。

  • 複数のサイロに分散したコンテンツを見つけられるようにする方法
  • 収益増に結び付ける方法
  • 実際には存在しないシステムも含め、他のシステムに接続する方法
  • 柔軟性を維持することの重要性
  • より大きな企業イニシアティブにつながるDAMの実装

Pasta Buddy社のご紹介

シリーズ第1回目となるこの記事では、ベストプラクティスその1「複数のサイロに分散したコンテンツを見つけられるようにする」を取り上げます。

透明性を高め、お客様企業が特定されるのを防ぐため、ここでは仮名を使い、このCPGメーカーをPasta Buddy社と呼ぶことにします。Pasta Buddy社は売上高100億ドルのCPGメーカーです。

今月稼働を予定している、この[CPGメーカーのDAM実装](/industry/retail/)は、より俊敏で生産的、かつ柔軟な企業になるという同社のデジタルトランスフォーメーションイニシアティブの一環として進められています。Pasta Buddy社は、実績豊富な同社にとっては比較的新しく未熟な、eコマースの取り組みを急速に拡大する必要があります。

検索が難しい理由

複数のサイロにまたがる検索がそんなにも難しいのはなぜでしょうか?それを説明するため、Pasta Buddyブランドが生み出した簡素な瓶入りトマトソースについてお話ししたいと思います。その中でも特に、16.9オンス瓶を取り上げます。

CPG向けDAM

Pasta Buddyチャンキースタイル(ざく切りトマト入り)のブランドマネージャを務めるDelicioso Rosso氏は、このブランドのクリエイティブ開発とその全般的なパフォーマンスを管理しています。大半の消費財メーカーがそうであるように、Pasta Buddy社のブランドマネージャは同社のブランドのゼネラルマネージャです。

Rosso氏は広告代理店や社内クリエイティブ部門と連携し、主に上図のような商品写真を記録するととともに、生活のシーンに当てはめて撮影したライフスタイルショットも記録することで、ブランド独自のストーリーを伝えられるようにしています。

CPG向けDAM

他のブランド名の瓶入りパスタソースでは伝わらない甘い風味

Pasta Buddy社は、長年の豊富な実績を誇るメーカーですが、その長い歴史ゆえに時代遅れのレガシーシステムやプロセスが多く残っていることも事実です。また、Rosso氏のようなブランドマネージャは国内消費者市場に重点的に取り組んでいるのに対し、他の部門は同じ商品を外食産業や外国市場向けに売り込んでいます。

ここで生じる課題は、外食産業部門のニーズが異なることです。外食産業部門が必要としているのは、チャンキースタイルのパスタソースを法人顧客に売り込むためのパンフレットやプレゼンテーション、Pasta Buddyがパスタソースに最適な商品であることを示す比較チャートなど、B2Cマーケティング担当のDelicioso Rosso氏には必要とならないコンテンツです。

国際部門はどうでしょうか。16.9オンスの瓶入りチャンキースタイルソースをカナダと日本で販売する場合、国際部門は栄養成分表示ラベルをローカルコンテンツで置き換え、サイズ表記を500gにする必要があります。

そのため、印刷準備のできた商品パッケージとライフスタイルショットをRosso氏が社内ファイル共有上に保存しており、外食産業部門と国際部門がその場所を把握していたとしても、あまり助けにはなりません。外食産業部門と国際部門は、適切な変更を加えられるよう、最終版の画像だけでなくデザイン用のファイルにもアクセスできる必要があります。

CPGメーカーの場合のDAM検索

Pasta Buddy社はこのプロセスをDAM導入前にどのように管理していたのでしょうか?

コンテンツのたらい回し

日本担当の国際マーケティングマネージャであるAka氏が、Pasta Buddyチャンキースタイルのファイルにアクセスする必要があるため、ブランドマネージャのRosso氏宛てに月曜日にメールを送信したとします。Rosso氏は、受信ボックスが着信メールでいっぱいになっていたため、Aka氏からのメッセージに気付きません。

水曜日になり、Aka氏はRosso氏にメールを再送しました。
翌朝、Rosso氏は返事が遅れたことをAka氏に謝り、至急取り掛かることを伝えます。

Rosso氏は、広告代理店のアカウントマネージャであるJonathan Adom氏にメールを送ります。

Jonathanはその翌朝、代理店のクリエイティブディレクターであるSujal Laal氏にメールを送りました。タイミングが悪いことにSujalは休暇中であったため、月曜の朝になってようやくメールを開き、前回このコンテンツを担当したクリエイティブスタッフのAmal Ahmar氏にリクエストを転送します。

締め切りに追われていたAmalは、火曜日の朝になってようやくこのメールを開きました。Amalはノートパソコンでファイルを見つけ、Sujalにファイルを返信しようとしましたが、ファイルが大きすぎるため送信できないというエラーメッセージが広告代理店のメールシステムから返されました。そこでAmalは、個人用のDropboxにファイルを配置して、代わりにリンクを送ることにしました。

Sujalは急いでリンクをJonathanに送り、翌朝JonathanはリンクをDeliciosoに転送しました。
Deliciosoはそのとき、テレビコマーシャルの撮影ロケ地にいたため、大容量PSDファイルをリンクから開くことができません。金曜日にオフィスに戻ったDeliciosoは、それが正しいコンテンツであることを確認してからAka氏に転送しました。しかし残念なことに、日本は既に土曜日になっていました。

それに加え、Aka氏自身も締め切りに追われていたため、最初のリクエストを送ってから1週間が経った月曜日に仕事に戻ったときには、既にリクエストをあきらめ、日本でパッケージの写真を撮影するための急ぎのリクエストを日本の広告代理店に送った後でした。

CPG向けデジタルコンテンツ

非常に厳しい状況であったことがおわかりいただけることでしょう。Pasta Buddy社では、手動プロセスが生産性を損ね、商品化に要する時間を長くするだけでなく、環境内のコンテンツが十分に可視化されていなかったため、コンテンツの再作成というコストのかかる無駄なプロセスが頻繁に発生していたのです。

自分の組織で検索が機能していないかどうかを調べる方法

企業が次に自問すべきであることが明らかな質問は、「この問題は自分の組織でも起きているか?」「どのようにしてそれを調べることができるか?」です。

この答えを得るための方法として、以下の項目をトラッキングして測定することをお勧めしています。

  • 1週間あたりのコンテンツリクエストの数
  • ブランドマネージャが受け取るメールのうち、コンテンツリクエストやその回答に関連しているものの数
  • 典型的なリクエストを処理するのにかかる時間
  • 同じデジタルアセットを2回以上撮影し直す必要が生じる頻度

DAMソリューションが導入されていない場合、これらの値を包括的に測定することは難しいかもしれませんが、組織内で聞いて回ったり、簡単な調査を実施したりするだけでも、懸念すべき点が浮き彫りになるはずです。

検索が機能していないことが判明した場合

一つの選択肢は、コンテンツサイロをそのままにする一方で、全コンテンツにインデックスを設定することによって、メタデータがシステムとリポジトリに埋もれて見えなくならないようにすることです。これによって企業の社員は、複数のサイロにわたってコンテンツを検索し、見つけられるようになります(ただし、システムがインデックス付けに対応している必要があります)。

この方法は、組織内の一部またはすべてのチームが既にプロセスを確立しており、それらのプロセスがうまく機能しているため、それを台無しにしたくない場合に好適です。

CPG向けデジタルアセット

もう一つの選択肢は、すべてのコンテンツを同じDAMシステムに配置しつつ、部門別の柔軟性をある程度残しておくことです。この場合は、各部門がどのコンテンツを所有し、(アクセス許可、ライフサイクル状態、有効期限日、アーカイブ/削除/破棄などの変更を行うための)アクセスを制御できるかを設定することが必要です。

それと同時に、DAMソリューションでは、共通のメタデータモデルに基づいて全コンテンツが組織内の全員に対して可視化されます。

Pasta Buddy社では、製品名が検索基準として既に全社的に使用されていたため、製品名を中心としたデータモデルを採用することで組織内の整合をとることが比較的容易でした。

CPG向けデジタルアセット管理

次回の記事では、DAMが企業の収益増につながる重要な役割を果たす仕組みについてご説明します。