レガシーという言葉は一風変わった言葉です。ほとんどの職業や社会的地位では、良い意味で使われます。たとえば、社会貢献活動に熱心な慈善家は、学校を新設したり、医療機関に資金提供したり、何らかの慈善活動に従事したりしてレガシーを生み出します。モーツァルトは、数々の素晴らしい楽曲というレガシーを後世に残しました。私たちはこの世を去るときに、どのようなレガシーを残すことになるでしょうか?

一方、ビジネスの世界(特にIT分野)で使われるレガシーという言葉は、好ましくない意味を含んでいます。

レガシーシステムとは何か?

レガシーシステムとは通常、目的に適わなくなったITアプリケーションを指します。組織内でERP(企業資源計画)を実行するメインフレームベースのアプリケーションを考えてみてください。このアプリケーションは、1990年代後半に購入・インストールされたときは、その当時の組織の要件をすべて完全に満たすものでした。

ところが、時間の経過とともに、反応の遅さ、サポートとメンテナンスの困難さ、ユーザインタフェースの古さと使いにくさ、組織内の残りの情報システムからの完全な分離といった問題を抱えるようになりました。

このことは、「レガシー」システムをマイナスのイメージでとらえる風潮を生んでいます。つまり、「組織の資源を使い果たす」、「使いにくい」、「目の上のたんこぶ」というイメージです。

それでは、組織はなぜ問題のあるシステムを処分して、今日のニーズに適合した最新のアプリケーションで置き換えないのでしょうか?それは、口で言うほど簡単ではないからです。

新しいシステムに移行できない理由

ニール・セダカが「悲しき慕情」の中で歌う「別れるなんてつらすぎる」という状況は、今のレガシーシステムをよく言い当てています。考えてみてください。もし新しいバージョンへのアップグレードや代替ソリューションへの移行が簡単ならば、すでにそれが行われているはずです。多くの場合、レガシーシステムに簡単に別れを告げる方法がないというのが現状です。

最大の課題は、組織にとってレガシーシステムの重要度がきわめて高い傾向にあることです(そうでなければ、すでに削除または置換されているはずです) 。私が知っている例では、ある大手リテールバンクが、オンラインバンキングの詳細情報に顧客がアクセスできるようにする目的でレガシーアプリケーションを利用していましたが、このアプリケーションは少なくとも1週間に1回はクラッシュするという到底好ましくない状況にありました。

問題はどこにあるのでしょうか?アップグレードや移行を実行するには、ふつう、既存のシステムを停止して、新しいシステムを稼働することが必要となります。これを怖がってやりたがらない組織もいます。新しいシステムにすべてのデータが移行されなかったらどうなるか?以前と同じ方法でウェブサイトに接続できなかったら?不安の種は尽きません。システムを一括して置き換えるこのビッグバンアプローチは、CIOのキャリアの成否を分けかねず、自信のない組織には向いていません。

第二の課題は、CIOがアップグレード/移行プロセスに絶対的な自信を持っている場合でも、限られた時間内にアップグレードや移行を実行するのが物理的に不可能な状況があることです。

前述のリテールバンクの場合、レガシーアプリケーション内に常駐している約10億個のコンテンツアセットを新しいシステムに移行するには、1年を軽く超える時間が必要でした。顧客がオンラインの口座詳細にアクセスできない状態を 1年も続けることは論外です。

こうした要因は、多くのレガシーシステムがいまだに実行されている最たる理由となっています。レガシーシステムを実行している組織は、どのようにすれば現在使っているシステムから移行できるか、つまり、別れを告げられるかがわからないのです。

ロマンスを再燃させる

どんな関係にも苦難のときはあります。関係をうまく続けるには努力が必要であり、いつ変化が必要であるかを認識できることも時として必要となります。このことは、組織内のレガシーシステムにも当てはまります。レガシーシステムとそれに関連したさまざまな問題を排除しようとするのではなく、これまでとは違う方法で、システムとの関係改善を図ったらどうでしょうか?

前述したとおり、レガシーシステムに伴う課題の一つとして、これらのシステムが組織内の他の情報システムから(少なくとも部分的に) 孤立している傾向があることが挙げられます。そうでなかったらどうでしょうか?レガシーシステム内のすべての情報と機能に、レガシーシステムを介さずにアクセスできる方法があったらどうでしょうか?

その方法が実際にあります。

点と点をつなぐ

大半のレガシーアプリケーションには、アプリケーションプログラミングインタフェース、つまりAPIを使用して他のシステムに接続したり、他のシステムと連携したりするための機能が用意されています。ところが、APIを使用するには、専門的なソフトウェア開発者がレガシーシステムと連携するためのカスタムコードアプリケーションを作成する必要があります。その意味でAPIは、自信のない組織には向いていません。レガシーシステム内のすべての情報と機能にアクセスし、第二のインタフェースを使用してそれを複製するには、多大な労力が必要となります。多くのレガシーシステムが他のコアビジネスソリューションから切り離され、孤立したままになっているのは、まさにこのためです。ただし、比較的新しいテクノロジーコンセプトがこの状況を変えつつあります。

過去数年間にコンテンツサービスプラットフォーム が出現し始めたのと時期を同じくして、異種システムを接続するためのツールやテクニックが登場し始めています。その例としては、システム(レガシーシステムを含む)に接続して、そのシステム内の情報と機能の使用法に関する共通の言語を提供する、使いやすいコネクタがあります。

ここでは、エンドユーザ組織が大量のカスタムコーディングを行う必要はなく、事前にビルドされたツールを使用して、レガシーアプリケーションと組織の間にリンクを作成できます。このようにして作成されるマッピングはメタデータレイヤと呼ばれるもので、これまでロックされていたレガシーシステム内の情報にアクセスする新しい方法を提供するために、他のアプリケーションによって使用されます。

このアプローチは、組織内のあらゆる情報や機能をさまざまな方法で利用できるようになることを意味し、レガシーアプリケーションの使い方についてトレーニングを受けた人でなくても情報や機能を利用できることを意味します。

広がる可能性

これで何が可能になるか考えてみてください。エンドユーザは、(以前はレガシーのERPシステム内でロックされ、アクセスできなかった)顧客向け請求書の詳細情報に各自のCRMシステムからアクセスできるようになります。ビジネスユーザは、そのERPシステムに格納されている財務情報に基づいてカスタムダッシュボードを構築できます。以前と違う点は、レガシーシステムに備わっているテキストベースのレポートではなく、最新のビジュアルレポート作成ツールを使用してそれを行えることです。このように可能性は無限大です。

ビジネスユーザが理にかなった方法で情報にアクセスできるようになると、レガシーシステムは組織の足手まといではなくなり、購入当初の存在意義を取り戻して、大きな価値をもたらすリソースへと生まれ変わり、ユーザがレガシーシステムともう一度やり直せるようになります。

レガシーシステムとどうしても別れたい場合は?

レガシーシステムとの仲を取り戻した結果、レガシーシステムに格納されていたすべての情報にユーザがアクセスできるようになり、万事うまくいく場合もあれば、そうではない場合もあります。

つまり、組織がレガシーシステムからどうしても移行したがっている場合です。その背景には、「システムの年間メンテナンスコストが高すぎる」、「システムが頻繁にクラッシュする」、「高額の専用キットが必要となる」といった事情があることが考えられます。

レガシーアプリケーションからどうしても移行したい場合も、そのアプリケーションのすべての情報と機能にアクセスできるようにすることが最初の重要なステップであることに変わりはありません。それでは、この最初のステップが完了した後は、どのようにしてレガシーシステムとの関係を断つことができるでしょうか?このプロセスのステップ2とステップ3は非常に重要です。これについては、また後日ご説明したいと思います。