先日ボストンで開かれた「ドキュメント・ストラテジー・フォーラム に行ってきました。想像に難くないかもしれませんが、出席者のなかには、事業課題を解決するソリューションを探している人がたくさんいました。もちろん、自社の製品とソリューションがそうした課題の解決にどう役立つかを喜んで説明するというベンダーもたくさん来ていました。
しかし、ひとつ私の印象に残ったことは、出席者が尋ねていた質問の種類でした。「ここを直したい」といった純粋に戦術的な質問よりも、私が戦略的な質問と呼ぶような内容を聞かれることのほうが多かったのです。これは記憶にあるかぎり初めての経験でした。もう少し詳しく説明しましょう。
レガシーが最大の課題に
この会議で経験した会話の多くは、レガシーアプリケーションをどう管理するのがベストかにかかわる内容でした。これは以前から問われてきたものの、最近とみに重要性を高めています。私が話した人たちは、「レガシーシステムを廃棄して、より良い機能の新しいシステムを入れる必要がある」というような戦術的な思考の域を大きく超えていて、少なくとも短期的にはレガシーシステムを必ずしも廃棄せずに、どうすればそこから価値を搾り出せるかを重視していました。
この考え方の変化は非常に新鮮です。ECMとコンテンツサービスの分野で起こっていることを反映しています。ECMのレガシーに対するアプローチは、「廃棄して入れ替える」でした。文字どおり、すべてのコンテンツを旧システムから新システム、すなわち「より良い」システムに移すことを意味します。しかし、このアプローチにはいくつもの問題があります。
- 新しいシステムは、以前のシステムの機能をすべて完全に継承しなければなりません。そうでなければ、影響を受けるユーザやプロセスが出てしまいます。
- データとコンテンツを新しいリポジトリに移行するには時間がかかります。例えば弊社のある顧客は、16億個のコンテンツアイテムを有していて、これらをすべてあるシステムから次のシステムに移行するには12か月以上かかると見積もりました。そのコンテンツにアクセスしたいのであれば、理想的な状況ではありません。
- 古いシステムを廃棄してしまうのは、リスキーであり、恐ろしいことです。勇敢なCIOが、レガシーシステムはもはや目的にかなわないという決定を下さなければなりません。しかも、そのシステムというのは、おそらくは自分たちで選択し、購入し、導入したシステムです。そのうえ、基幹業務システムを別のシステムに実際に移行するとなると、それ以上に勇敢なCIOによる英断が求められます。
これらのことを考えれば、多くの企業が今も多数のレガシーアプリケーションを抱えている理由は明らかです。廃棄して入れ替えるアプローチは、理想的ではないのです。
中期的な戦略の視点
コンテンツサービスプラットフォーム(CSP)が採用しているより戦略的な視点では、廃棄して入れ替えるアプローチを要求しません。レガシーシステムと連動し、すでに保存されているデータやコンテンツのアクセスと配信を可能にして、価値を付加しようとするのです。このアプローチなら、新しい機能を手に入れるために苦難の移行プロジェクトに立ち向かう必要がなく、即座にメリットを謳歌することができます。例えば、次のような機能です。
これまでレガシーシステムに閉じ込められてきたデータを共有する レガシーコンテンツをモバイル機器に対応させる
*コンテンツやデータを他のシステムのコンテンツやデータと組み合わせて、同期した合理的なプロセスを作る
戦略的な視点というのは、長期的にメリットをもたらすものとされていますが、皮肉なことに、この戦略的な角度は、戦術的な対処法よりもはるかに早くメリットを実現するのです。
適材適所
ボストンの会議で感じたもうひとつの新鮮な側面は、企業内の様々な部署が異なる業務ニーズを抱えている一方で、同じコアの情報を活用しているという認識の高まりでした。この点においても、かつては単にシステムを追加するという戦術的な対処法が取られていましたが、最近では、データとコンテンツを扱う共通のプラットフォーム上にカスタムソリューションを構築したほうが、はるかにスケーラブルでサステナブルなアプローチだということを、エンドユーザが理解するようになっています。このことは、コンテンツサービスが「コネクテッド」な性質を有することを考えると、とりわけ重要であり、価値があります。レガシーアプリケーションのCSPへの接続については以前の記事で取り上げましたが、これを拡大して、コンテンツリポジトリ、ビジネスアプリケーション、その他のデータソースなど、基本的にあらゆるシステムをCSPに接続することができます。
未来対応を意識した最新のアプローチとは、関係する情報ソースをすべて1つの中央ハブにまとめ、幾多もの表示方法やアプリケーションとの連動を可能にするアプローチです。その表示には、CSPでの表示だけでなく、モバイルアプリ、CRMツール、ウェブポータルでの表示などが考えられます。エンドユーザが必要とするのであれば(何よりも希望するのであれば)、もっとパーソナライズした方法で情報を使用することもCSPなら可能です。
「適材適所」のメンタリティは、未来の情報管理のカギを握ります。これを多くの人が[インテリジェント情報管理](http://info.aiim.org/the-next-wave-from-ecm-to-intelligent-information-management-aiim)と呼ぶようになっています。すべての関連情報(コンテンツとデータの組み合わせ)をユーザの望む形式で、望むデバイスに届ける能力は、きわめて重要です。今まであまりにも長い間にわたって、エンドユーザは、コンピュータシステムやアプリケーションに自分の働き方を合わせるよう強要されてきました。それがついに変わり始めたのです。しかもこの変化は、私たちが職場で情報を作成・管理・消費する方法を変える可能性を秘めています。
戦略など必要なのか
これまで情報管理システムを導入してきた人たちに戦略的思考がなかったと言うのは、あまりにも手厳しい批判です。しかし、これまで利用することのできたツールゆえに、事業課題を解決しようとするに当たって戦術的な行動を強いられてきたと言うことはできるでしょう。
新世代のコンテンツサービスプラットフォームは、インテリジェント情報管理と見なされる状態を実現するための理想的な技術ツールセットをもたらします。情報管理の世界に携わっている関係者の多くは、実際の戦略やエンドユーザのニーズよりも技術とツールを重視してきました。コンテンツサービスプラットフォームは、依然として技術ツールセットでありながら、戦略的思考を奨励します。なぜなら、これによって実現する機能の範囲が、これまでのECMに比べてきわめて幅広いからです。
会社内のエンドユーザのニーズに目を向け、それを情報管理と情報活用の戦略的ビジョンに融合させられる能力は、驚くほどパワフルです。そして、基本となるコンテンツサービスプラットフォームが舞台裏で接続性を確立し、情報の管理と配信を司ることで、インテリジェント情報管理の未来がついに実現するかもしれません。