今年に入ってから私は、American Bankerがスポンサーを務めるウェビナーを、Nuxeo のパートナー企業である Perficient社の Sean Calvillo 氏と共同主催する機会に恵まれました。ウェビナーの主題は「”銀行業における優れたカスタマーエクスペリエンスの実現」でした。この記事では、銀行が顧客の生活において意味のある存在であり続けるために、どのように変革を遂げることで、カスタマーエクスペリエンスに関連した課題に対応していくかについて、いくつかの見解とフィードバックをご紹介したいと思います。
銀行業におけるカスタマーエクスペリエンスについてのディスカッション
ウェビナーの質疑応答セッションは、 銀行業にとってカスタマーエクスペリエンスを向上させることが今後の最重要課題である理由 というテーマのディスカッションで始まりました。銀行業界のディスラプション、つまり創造的破壊は、従来とは異なる競合先や金融機関以外の企業に由来しています。またそれを受け、高度にパーソナライズされた、豊富な情報に基づくインタラクションや、複数のチャネルにわたってシームレスに行われるリアルタイムの決定など、銀行に対する顧客の要求も高まっています。今日の銀行は、新しいデジタルエコノミーに適応できなければ、顧客との関係が消滅しかねない危険に迫られています。
銀行はどのようにして優れたカスタマーエクスペリエンスを実現できるでしょうか?ウェビナーから得られた知見が示すところによると、銀行が優れたカスタマーエクスペリエンスを実現するには、次の 2 つの大きな課題を克服しなければなりません。 1.銀行全体に分散した 情報サイロ に現在閉じ込められている大量の情報を利用できるようにする必要があります。 2.情報システム(その多くは、今日の「デジタルファースト」エコノミーのスピードに順応するようには設計されていない)を モダナイズ する必要があります。
Calvillo 氏と私は、このウェビナーの参加者から大変良い質問を受け付けました。この記事では、そのいくつかを回答とともにご紹介していきます。
「銀行業におけるカスタマーエクスペリエンスと顧客満足度の違いは何ですか?」
私が考えるに、顧客満足度のほうが容易に測定できます。顧客満足度は、特定の商品レベルに関連付けられる傾向があり、顧客が期待しているものと顧客が実際に受け取るものとの間の差にあたります。たとえば、「この銀行の融資にどの程度満足しているか?」、「この銀行のクレジットカードにどの程度満足しているか?」がそれに相当します。
一方、カスタマーエクスペリエンスは、銀行とのあらゆるインタラクションを総合したものです。 たとえば、「この銀行とビジネスを行うのはどの程度容易か?」、「パーソナライズされたサービスがこの銀行から提供されていると感じるか?」、「この銀行のウェブサイトやモバイルアプリは直感的なデザインで操作しやすいか?」などがそれに相当します。つまり、カスタマーエクスペリエンスは、個々の商品やサービスではなく顧客にフォーカスを当てています。
「カスタマーエクスペリエンスが銀行にとってそれほど重要なのはなぜですか?」
カスタマーエクスペリエンスが顧客からのコミットメント、つまり「ロイヤルティ」や「顧客内シェア」、「リファラル(口コミ)」を促進するためです。魅力的な価格のオファーが他行から顧客に対して提示されている場合でも、その顧客はあなたの銀行を引き続き選んでくれるでしょうか?顧客はあなたの銀行からさらに多くの金融商品を購入して、競合商品に対する自社商品の浸透率を高める傾向があるでしょうか?そして、顧客は友人や家族にあなたの銀行を薦める気があるでしょうか?これらは、銀行が顧客にとって意味のある存在であり続け、競争力を維持し、市場シェアを拡大するための三大柱です。
「銀行業のカスタマーエクスペリエンスの向上を大きく後押ししている力は何ですか?」
この推進力の中心となっているのは、 ビッグテック など、従来とは異なる競合企業です。Amazon、Google、Facebook、Apple をはじめとした企業は、カスタマーフォーカスの水準を引き上げ、顧客はこれらの企業から受けられるレベルのサービスを、銀行などの金融サービス業を含む、あらゆる業界に対して期待するようになっています。つまり、顧客は、「Amazon とビジネスを行うときと同様のビジネスのしやすさ」を銀行にも当然のものとして求めています。
「フィンテックはどのような位置につけていますか?」
現時点でフィンテックは、銀行にとって「諸刃の剣」の状況にあります。
つまり、俊敏なフィンテック企業と提携して、新商品やサービスをすばやく開発・導入できるようになることが銀行にとってメリットであることは確かです。しかしその一方で、フィンテックのスタートアップ企業は、従来型の銀行の収益源を蝕み、ビジネスモデルを破壊する恐れがあります。
ビッグテックとフィンテックによってカスタマーエクスペリエンスの水準が引き上げられているとは、どういう意味ですか?」
一言で言い表すならば「スピード」です。 これらの企業は、豊富な情報に基づく商品やサービスを迅速に適用し、リアルタイムの決定を迅速に下します。イノベーションの最先端を進み、パーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスで顧客を喜ばせることができます。
これらが可能なのは、ビッグテックとフィンテックの デジタルアジリティ のおかげです。そして今日、顧客が考えるカスタマーエクスペリエンスには業界による区別はありません。相手がどの業界かにかかわらず、高い水準のカスタマーエクスペリエンスを期待するようになっています。
「デジタルアジリティによるサービス提供の高速化とカスタマーエクスペリエンスの向上の例としては、どのようなものがありますか?」
その例は至る所で見受けられます。
- 「Affirm」社は、消費者が 1,500 以上の小売店で 2 か月、6 か月、12 か月のローンをその場ですぐに組めるようにしています。
- 「Better Mortgage」社は、住宅ローンの審査を 3 分で完了し、24 時間以内に承認できます。
- 「GreenSky」社は、リフォーム/リノベーションプロジェクト向けの即決ローンを提供しています。
- 「Upstart」は、人の介入なしに 47%のローンを承認しています。
これらの企業はすべて カスタマーフォーカスに力を入れており、ほぼリアルタイムの決定を下す ことで、顧客を満足させ、顧客が他社の商品を検討し始める前に契約を取り付けることができます。
「既存の銀行がカスタマーエクスペリエンス面で対等の立場で競争するのを妨げている困難な課題には、主にどのようなものがありますか?」
おそらく最大の阻害要因となっているものは、コンテンツとデータのアクセス性、そしてそれらの情報に依存しているレガシーシステムの 2 つでしょう。
まず、ご存知のとおり、データの量、タイプ、サイズは激増しています。銀行が顧客データにアクセスする場面は今まで以上に多くなっています。しかし、これらの顧客データは銀行全体に分散されているため、顧客を総合的に把握することが困難です。また、レガシーシステムでは、変化する顧客の嗜好や期待に適応するための変革が進んでいません。一枚岩的なレガシーシステムは、動的に変化するビジネスモデルにすばやく適応するようには設計されていないのです。
これら 2 つの要因の組み合わせは、ポジティブなカスタマーエクスペリエンスをもたらす銀行業界の能力に重大な悪影響を及ぼしています。
「銀行はこうした動的な変化に銀行が適応するために何をすべきですか?」
まず、銀行は 自社のコンテンツとデータをコントロール する必要があります。銀行はこれまで何十年にもわたり、あらゆる顧客情報を単一のリポジトリに統合できると謳ったソリューションを売りつけられてきましたが、現実はそうなっていません。
ほとんどの場合、銀行は、ポイントソリューションや企業合併・買収、規制上の理由から、分散した情報をコントロールできておらず、そもそも情報を統合することを望んでいないこともあります。
銀行に必要なのは、情報が組織全体に分散されている問題にスマートに対処できるようになることです。そのうえで、 レガシーシステムをモダナイズ しなければなりません。レガシーシステムは、今日のデジタル消費者の要求に敏捷に適応できるようになる必要があります。新商品およびサービスを、数か月または数年ではなく、数日または数週間で提供できなければなりません。 今日のレガシー製品でこのペースについていくことは不可能です。
「これらの課題を克服するために、どのような措置を講じればよいですか?」
すべての問題を解決できる一つの答え、つまり万能薬のような措置があるわけではありませんが、銀行が競争力を維持し、顧客にとって意味のある存在であり続けるために行えることがいくつかあります。
コンテンツとデータに関しては、 銀行がこれらの重要な情報に、その場所を変えることなく接続できることが必要です。 別のリポジトリを当てにして現行のリポジトリを単に総入れ替えすること は、もはや実行可能な代替策ではありません。情報は常に複数の場所に置かれます。情報の置かれている場所を変えることなくその情報にアクセスできると、銀行はビジネス上の決定をより効果的かつ迅速に下せるようになります。データはリアルタイムの決定を下すための鍵です。 銀行は、自社の情報にアクセスできるようになったら、自社にとって最も合理的かつ混乱の少ない方法・期間で情報を統合するための最善策を決定できるようになります。
レガシーの情報システムをモダナイズするとは、 アプリケーション開発のための一枚岩的な「製品」から、より俊敏でサービス主導の「プラットフォーム」アプローチに移行すること を指します。これにより、単一のインフラストラクチャベースから複数のアプリケーションを作成することが可能になり、テクノロジーの発展に合わせてアプリケーションの個々のコンポーネントの交換と拡張を容易に行える、将来を見据えた環境が整備されます。さらに、アプリケーションプログラミングインターフェイス(API)を使用して様々なサービスを接続することに基づく プラットフォームアプローチ により、いわゆる API エコノミーを活用する豊富な機会が開かれます。つまり、数千の組織から公開されている機能やサービスを利用することで、電子署名、地図、決済などの既存の機能を銀行が一から作成し直す必要がなくなります。そのため銀行は、特定のビジネス要件のみを満たすことに専念し、他のビジネス要件にはコモディティサービスを利用することができます。
銀行業のカスタマーエクスペリエンスを向上させるには?
- 第一に、銀行は、自社のカスタマーエクスペリエンスの質を向上させることに対する プレッシャーを受けています。
- 第二に、カスタマーエクスペリエンスに対する顧客の期待には業界の境界はありません。銀行業は数ある業界の中の一つにすぎません。そのため、銀行にとっての競争相手は次なる銀行ではなく、むしろ、優れた カスタマーエクスペリエンス をもたらすことに長けた業界です。
- 第三に、従来とは異なる競合先にはない何かが銀行にはあります。それは、 カスタマーエクスペリエンスを実現するための実践的なインサイトを生み出すことが可能な、顧客との財務関係と大量のトランザクションデータです。
- 第四に、どのデータもアクセスできなければ役に立ちません。アクセスできるようにするには、組織全体に分散された 情報を接続する必要があります。
- 第五に、それらのインサイトを引き出すには、 AI と ML を活用 する必要があります。単に人的資源を投入することは、拡張性に優れたモデルではありません。
- 第六に、情報システムのモダナイゼーションによって デジタルアジリティ を手に入れ、変化するビジネスモデルと顧客の嗜好にすばやく対応できるようにするほか、より俊敏な競争相手に匹敵するスピードで新商品およびサービスを提供できなければなりません。これは基本的に、製品ベースのアプリケーションの考え方からプラットフォームアプローチに移行することを意味します。
- そして最後に、豊富な情報に基づく文脈依存データを利用して、あらゆるタッチポイントでカスタマーエクスペリエンスをパーソナライズすることで、顧客にとって銀行との インタラクションがパーソナライズされている と感じられるようにする必要があります。
今すぐデモをリクエスト して、このデジタル時代に競争力を維持するために必要な優れたカスタマーエクスペリエンスを Nuxeo Platform の機能によってどのように実現できるかご確認ください。