米国では保険会社の3分の1以上が、バーチャル請求処理を使って請求のプロセスをスピードアップしています。これが業界全体に浸透するのも、まもなくのことでしょう。

最近のスマートフォンはパワフルで、画像品質も優れているため、保険の加入者本人や販売代理店が損害状況の写真を撮って保険会社のサイトにアップロードしたり、ビデオでストリーミングしたりして、保険会社に情報を送ることができます。保険会社のアジャスターが現場に到着して住宅や車を査定してくれるのを待つ必要はありません。請求の手続きを開始して進める過程で、保険会社に何度も電話する必要もありません。

バーチャル請求

請求処理をする側にしてみれば、査定プロセスを始めるために必要な書類を、お客様から直接、ものの数分で入手できます。警察やメーカーなど外部から入手する必要のある追加書類も、自動ツールで収集されます。そして、修理額の見積もりが、損害状況の写真やビデオと併せて、修理工場や然るべき第三者に自動的に送られます。場合によっては、支払いも電子的に行えます。バーチャル請求処理は、このようなメリットを保険会社と保険加入者にもたらします。

ですから、多くの大手保険会社が続々と導入しているのも驚きではありません。法務情報の調査を手がけるLexisNexisによると、保険会社の38%が、請求処理業務の迅速化とコスト削減、そして顧客満足度の向上を目的として、バーチャル請求処理を導入済み、または導入を検討中です

自動車保険では、全米の大手50社のうち95%が、すでにバーチャル請求処理を使っていて、損害発生通知から支払いまでの全プロセスを電子的に処理するタッチレス請求の可能性を模索しています。

##請求処理の近代化
保険加入者が保険会社に対して期待することは、時代とともに変化してきました。いまではほとんどの加入者が、お気に入りのサイトでオンラインショッピングをするときのように、スムーズでシームレスに保険会社とやり取りできることを期待しています。

バーチャル請求処理は、お客様が日常生活で普通に期待するようなコントロールを提供して、優れた顧客体験を実現することができます。然るべき情報を然るべき担当者にもたらして、お客様が必要とするサポートをできるだけ速く、完全に、簡単にお届けするのです。

損害発生通知から損害査定、そして支払いまでにかかるコストは、損害調査費と呼ばれていますが、このコスト削減に対してますます大きなプレッシャーがかかるようになっています。そこでバーチャル請求処理が、それを助ける手段となるわけです。バーチャル請求処理を取り入れている企業では、請求1件当たりの処理コストが最大50%削減されています

バーチャル請求

また、これまでの請求処理では給付までに10~15日かかっていたところを、バーチャル請求処理で2~3日に短縮できたという実績が、やはりLexisNexisの調査で報告されています。

保険業界の失業率は今や1.7%と記録的な低さを推移していますから、不足する人的資源をもっと有効活用する方法を企業は見つけなければなりません。自動化技術を利用すれば、アジャスターを単純な案件から解放して、より複雑な案件に投入できるようになり、仕事の満足度も高められる可能性があります。

業務をスピードアップして処理サイクルを短縮し、損害調査費を削減し、人材を有効活用し、しかもお客様に喜ばれるシームレスな体験を提供できるのですから、すべての人にメリットがあることです。とはいえ、なおも重要な質問が残ります。ニーズに応えるために、保険会社はどのようにスケールすべきかです。

##未来対応 ― 次なる変化に備える
これらのプロセス改善は、未来志向の保険会社にとって、ほんの手始めにすぎません。これらの会社は、次のように考えています。「人間の請求処理担当者と同じ情報をとらえることができ、しかも人間では匹敵できない詳細度とスピードを持ち合わせた技術を使って、何ができるだろうか」。

これにはすでに答えがあり、それが業界のトランスフォーメーションを後押ししつつあります。

視覚技術に基づくAI、すなわちコンピュータビジョンと呼ばれるものが、視覚情報をとらえて処理する能力を持つようになっています。SASによると、オブジェクトの特定と分類の精度は、10年も経たないうちに50%から99%に向上しました。今日のコンピュータビジョンシステムは、視覚的なインプットを検出してそれに反応することにかけて、人間よりも正確かつ高速です

バーチャル請求処理の価値は、請求にまつわる多数の物理的な要素、例えば天候や車のコンディション、速度、その他の要因に関するデータを収集して処理することだけに留まりません。人間による査定という時間のかかる主観的なものではなく、類似した車や住宅の類似した損害状況を示す画像を数分のうちに数千枚と比較したうえで、一貫性のある査定結果を出せるようになるのです。

##バーチャル請求処理を実現するための4つのステップ
McKinseyは、AIがもたらすこの未来に向けて備えるために保険会社が何をすべきかを調査したうえで、次のことを勧告しました。

1.AI関連の技術とトレンドに明るくなる。ITチームは技術を導入することはできますが、AIに何ができるか、何をすべきかを理解するのは、経営幹部や取締役、そして顧客体験を担当する役職者の責任です。これらのステークホルダー全員が、時間とリソースを割いて、個別の部門だけでなく会社全体にわたって、その理解を構築しなければなりません。パイロットプロジェクトや検証プロジェクトを実施する際は、個別のプロセス改善ではなく、事業目標に焦点を当てるべきです。
2.一貫性のある戦略計画を策定し、その実行に取りかかる。自動化などの技術で事業戦略を支える方法を決定するに当たっては、長期にわたるトランスフォーメーションに臨むのだという姿勢を持つべきです。ITだけでなく、会社の業務全体、また全社員を巻き込むことを意味します。技術が進化するのに伴って、ある種の事業は「予測・予防」モデルに移行していきます。そこで、保険会社は、その進化に備えるための戦略的な反応を策定しなければならないでしょう。
3.包括的なデータ戦略を策定し、実行する。保険会社の事業部門が、巨大なデータのリポジトリを持っていることは分かっています。ビッグデータ時代の幕開け以来、多くの保険会社が高価なデータ収集・管理システムに投資してきたこと、そしてバラバラなデータから行動可能な洞察が得られないため最終的に放棄したことも分かっています。とはいえ、これらの膨大な社内データを理解してメリットに変えるという果てしない課題をかつてないほど簡単にしてくれるツールが今では存在しています。一方、外部データにアクセスすることは、今もなお困難で高価です。保険会社は、これらの困難を緩和し、社内データの価値を高める外部データを構築していくためのデータ調達戦略を策定しなければなりません。
4.必要な人材プールと技術インフラを構築する。未来の保険会社は、敏捷性と積極性のある社員を有していなければなりません。技術に明るく、クリエイティブで、かつ新しい要求や期待を持った新世代のお客様に対応するためのスキルセットを習得する意欲に溢れた人材です。損害調査、引受審査、営業などのプロは、これからも事業にとって重要であり続けますが、データサイエンス、データエンジニアリング、クラウドコンピューティングの専門家や経験豊富なデザイナーも、同じくらい重要になるでしょう。

バーチャル請求処理が最終的にもたらすのは、査定精度の向上、タッチポイントの減少、業務コストの削減、給付までの時間短縮、そしてお客様の請求体験の向上です。ただし、これらの恩恵は、周到な備えのある保険会社だけが謳歌できるでしょう。